大判例

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東京高等裁判所 昭和23年(行ナ)16号 判決

原告 株式会社大泉製作所

被告 特許庁長官

一、主  文

特許廳が昭和二十一年抗告審判第二七〇号特許拒絶査定不服抗告事件につき、昭和二十三年八月十七日なした審決はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求むと申し立て、その請求の原因として左の如く陳述した。

原告は「オスミウム」「ロヂウム」及び白金を主成分とする電気接点用合金の発明につき、発明者中村卯三郎より特許を受ける権利の讓渡を受けた上、昭和二十一年六月二十八日特許廳に対し特許を出願(昭和二十一年特許願第三四七四号)したところ、同年八月十三日附をもつて右特許出願を拒絶する旨の査定を受けたので、これを不服として同年九月二十三日抗告審判の請求(昭和二十一年抗告審判第二七〇号)をしたのであるが、その主張は容れられず、昭和二十三年八月十七日附にて、本願発明は昭和十九年三月発行にかかる神鋼第二十九号第二十五頁所載の電気接点用合金と同種のものであつて、新規の発明とは認め難いとの理由の下に、右抗告審判請求は成立たないとの審決があり、その審決書謄本は同月二十六日原告に送達せられたのである。ところで、本件発明の要旨は、「オスミウム」十ないし四十五パーセント白金十ないし五十パーセント「ロヂウム」一ないし二十パーセントを含有する電気接点用合金であり、審決引用のものも右三種の元素より組成される電気接点用合金であるには相違ないが、後者の「オスミウム」含有量は五十ないし八十五パーセントであり、白金及び「ロヂウム」もまた從つて本件発明の合金とその割合を異にするのであるが、かように合金の組成割合が異ることにより、両者はその物理的化学的性質、作用、効果の点に格段の差異があり、本件発明にかかる合金は電気接点用として引用例のものの有しない高度の工業的効果を有する。左にこれを詳述する。

(イ)  引用例のものは「オスミウム」の含有量が多いため、結晶構造の粗大なものを生じ、異常轉移又は酸化物の堆積を生じ易く、これがため電流通過の異常状態を惹起するかもしくは電気接点としての目的を十分に達すること困難なる欠点を有するのであるが、本件発明のものは結晶構造微細にして動作中に生ずる轉移は微量であるから、常に均一なる消耗をなして、接点面の間隔を一定に保ち、金属酸化物の堆積なく常に新鮮な金属表面を呈し、電流の導通不良を起さず、連続長時間の使用に堪える効果を有する。

(ロ)  白金の熔融点は攝氏一七六四度で、「オスミウム」の熔融点は攝氏二五〇〇度であるから、これを合金する際「オスミウム」の量が増加する程高温を要し、その際「オスミウム」の一部は酸化して揮散する。それ故「オスミウム」の含有量高き合金を得るため、高温度を使用する程「オスミウム」の揮散量が大となり、所要パーセンテージの合金を得ること一層困難となるのであるが、本件発明のように四十五パーセント以下の「オスミウム」含有量のものを合金する際には、その損失量はきわめてわずかにすぎないから、ほゞ所定の含有量の合金を容易に製作しうる。

(ハ)  「オスミウム」の含有量の少い本件発明の合金はその含有量大なる引用例のものに比して、硬度が低く、展性及び延性に富むため容易に所要の工作を施しうるのに反し、引用例のものは右性質を欠きその工作困難である。又これら合金を使用して工作するには、何れも熱間処理を行うものであるから、その際「オスミウム」の含有量高きもの程「オスミウム」の揮散する欠点がある。以上の如く、本件発明にかゝる合金は、電気接点用として引用例のものの有する欠点を除去し、その合金製造ならびに工作上の操作を容易ならしめるのみならず、高價なる「オスミウム」を使用する量少き故製作原價を著しく低廉ならしめる利点をも有し、その工業的効果において特段にすぐれており、特許法第一條にいわゆる新規の発明に該当すること明らかである。しかるに本件審決がこれを否定し、本件発明を特許に値せぬものとしたのは違法であるから、これが取消を求めるため本訴に及んだ次第である。

被告指定代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告主張の事実中本件発明が引用例のものと比較し、特殊の作用性能を有し、格段なる工業的効果あるものとする点は否認し、その余は全部これを認める。本件発明は引用例と同一考想に出で、これに基き容易に実施しうべきものであつて、到底新規の発明と目することはできないから、本訴請求は失当であると述べた。(立証省略)

三、理  由

本件発明が審決引用のものと比較し、格段に差異ある工業的効果を有し、これを新規の発明と認めうべきであるとの点を除いては、その余の事実関係は当事者間に爭がない。

よつて本件発明が果して原告主張の如く新規性を有し特許要件を具備するものであるか否かにつき判断する。成立に爭のない甲第一、二号証(第二号証は原本の存在についても爭がない)乙第一号証証人栗山秀雄の証言(第一、二回)鑑定人青山新一の鑑定の結果を綜合すれば、(一)本件発明にかかる合金と引用例のものとを比較するに、轉移量、抗張力、延展性、亀裂、熔融点、酸化度等の点において顕著なる差異があり、その物理的化学的性質を異にする故、合金学上これを別個の合金と見るを妨げないこと、(二)「オスミウム」の含有量に富む引用例の合金は電圧調整器や調速器等には適するが、電気接点としてはその含有量の少い本件発明の方が優れ、轉移量少く酸化度小なるため、使用上支障少くその壽命の長いこと、(三)又本件発明の合金は熔融点低く延展性大なるため、引用例のものに比すれば、その製作加工が格段に容易であること、(四)本件発明にあつては、高價なる「オスミウム」の使用量が少いので、工業的原價をいちじるしく低廉になしうること等の事実を認めることができる。かように本件発明は引用例のものと組成元素を同じくするが、その含有量を異にするため、合金としての特徴、性能を異にし、電気接点用としてその製作加工、使用上に前記の如き格段の利点を有し、生産費もいちじるしく低廉であること等よりすれば、両者がその工業的効果において多大の差異を有することは明らかであり、しかも両者はその主要組成元素である「オスミウム」の割合において重複するところがないので、本件発明は公知に属する引用例の單なる改変ではなくして、むしろこれと全く別個な新規の発明であると断ずるのを相当とする。それ故本件審決が、本発明は引用例のものに比し、特に優れたる点なく、何等新規性なきものと断じ、その特許要件を具備せぬものとしたのは失当であり、これが取消を求める原告の本訴請求はその理由あるものである。よつてこれを認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九條を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 大江保直 梅原松次郎 奧野利一)

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